事業成功の鍵を握る「コンテンツマーケティングのデザイン」

はじめに ~実務家と研究者が学術的アプローチでコンテンツマーケティングの手法論を解明するプロジェクトの発足
株式会社カタリベ 代表 永瀬義将 / 明治大学商学部 教授 小林一
 
近年、マーケティング施策として重要視される「コンテンツマーケティング」について、その手法論に迫るプロジェクトが発足した。
スマートフォン広告、とりわけネイティブアドにおいて独自の効果測定指標で数多くのD2C企業のコンテンツ制作を支援する株式会社カタリベと明治大学商学部で戦略的マーケティング論を指導する小林一教授と学生による産学連携プロジェクトだ。
 
このプロジェクトは、「企業にとってコンテンツマーケティングがなぜ重要なのか。
そのメカニズムを正しく整理できないか」という問いを出発点とし、1000名規模の消費者を対象とした調査からスタートした。
具体的には、デジタル経済における消費行動の実態を明らかにし、コンテンツマーケティングの有用性を導き出すことが目的だ。
 
企業と顧客をつなぐコミュニケーションが、デジタル経済以前と以降でどう変化したのか、それを理解したうえでコンテンツマーケティングをデザインする際に気を付けなければならないことまで、かいつまんでお話したいと思う。そして表題の通り『事業成功の鍵を握る「コンテンツマーケティングのデザイン」』について、そのエッセンスに触れていただければ幸いだ。
 
 
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カタリベ・明治大学小林ゼミ共同研究グループ
 
目次
● デジタルコンテンツの登場は何を意味するのか? 
● 何が変わった?インターネット、AI、デジタル経済のインパクト
    ・メディアのデジタル化とコンテンツのデジタル化
● 変わらないもの、それは「人」の情報処理能力
     ・デジタル技術の受容をめぐる顧客の処理能力の限界
     ・デジタル経済におけるイノベーションのジレンマ
     ・コンテンツ・ショック(Content Shock)
● コンテンツに対する顧客の知覚価値を左右する要因は何か
● リレーションシップ志向に基づくコンテンツマーケティング
● コンテンツマーケティングにおける「イノベーションのジレンマ」
● コンテンツマーケティングをデザインする上での課題:リレーションシップ、信頼、情報の縮約化
● まとめ
 
 
コンテンツマーケティングという用語は広義に捉えれば、コンテンツというメッセージを顧客(メッセージの受け手)に伝達することで彼らを説得し、購買へと導く様々な企業のマーケティングツールの総称を意味している。
 
それはマーケティングのプロモーション(コミュニケーション)の手法とほぼ同義であるから、古くから存在していたとも言える。コンテンツマーケティングはマーケティングのコミュニケーション手法という点では従来の延長線上にあり、その位置づけは何ら変わらない。しかし、インターネットとデジタル技術の登場によって、コンテンツというメッセージの性質とそれを伝えるメディア(媒体)の利用可能性が変容している。その意味では、大きく変わったともいえる。
 
コンテンツマーケティングの議論をする際にはメッセージとメディアの両方がデジタル化することで、何が変わり、何が変わっていないのかをきちんと考えておく必要がある。
コンテンツマーケティングの何が新しく変わって、何が変わらないのかを以下で検討してみよう。
 

インターネットやAIなどの情報処理技術が登場し、経済のデジタル化が急速に進展している。コンテンツマーケティングという用語の新しさは、コンテンツというメッセージと、それを送るためのメディア(媒体)がインターネットのデジタル技術をベースにして変容しているということである。経済のデジタル化を考える基本は様々にあり得るが、ここでは情報の流れ(情報流)、モノの流れ(物流)、そしてお金の流れ(資金流)という3つの取引基盤に注目して、経済のデジタル化を概観してみよう。

インターネットを介した情報流の変容が物流と資金流を巻き込む形で、急速に経済のデジタル化を推し進めている。ネットを通じて様々な情報がデジタル化され、高速に流れるようになっている。情報の流れが高速になることで、売買情報(何がどこで誰にどれくらい売れたのか)が流通の川上にも即座に伝達可能になった。
 
これはモノの流れ(物流)をより円滑化し、不要な商品を仕入れたり、不要な商品を生産したりすることが抑制できることになる。さらに売買に伴う決済情報も素早く収集され、資金の滞留も抑制されるようになった。資金の流れをデジタル情報として把握できれば、顧客の最終の購買行動も可視化できるようになる。購買履歴データを顧客のIDと紐づけることで、顧客の購買のヒストリーを追跡するわけである。AIの助けを借りながら、顔の見えない(匿名の)顧客が顔の見える(パーソナル化された)顧客へと変換されるようになったと言ってもよい。

コンテンツマーケティングもまたこの情報のデジタル化の波を受けている。このとき、コンテンツマーケティングに対するデジタル化の波を2つに分けて考える必要がある。1つはコンテンツを伝達するためのメディア(媒体)がデジタル化されたということである。もう1つはコンテンツというメッセージの中身がデジタル化されたということである。
 
もちろんコンテンツとメディアの2つは送り手(売り手である企業側)がコンテンツをメディアに載せて情報の受け手(顧客)に対して伝達するわけであるから、この2つを完全に切り離すことはできない。しかし、検討する際には、それぞれを別々に考えておく必要がある。

1)メディアのデジタル化

メディアのデジタル化に関わる議論には以下のようなものがある。

・トリプル・メディア:情報技術の進展、情報のデジタル化は、コンテンツを伝えるメディアの多様化を促した。従来のマスメディアはペイドメディア(有料のメディア)と名を変え、それに加えて、自前で発信可能なメディア(オウンドメディア)や情報の発信者が民主化(誰でも可能)したことによる口コミ情報などを中心としたメディア(アーンドメディア)が登場してきた。現代の情報発信は民主的な参加型に変わったと言われるゆえんである。

・メディアのリーチとリッチネスの両立:従来型のメディア(ペイドメディア)の特性を議論するときにしばしば指摘されてきたのは、メディアによる情報の拡散(到達度、リーチ)と情報の内容の豊かさ(五感に訴求する程度、迅速なフィードバック等のリッチネス)の間に存在するトレードオフ(矛盾)の存在である。たとえば、TVというメディアは広い範囲の顧客に露出できるのでリーチの面では優れているが、リッチネスは劣っている。
 
これに対して、小売店頭の販売員・店員という人的メディアの場合、リッチネスは優れているが、リーチは劣っている。要するに従来型のメディアは空間と時間の制約を打破する点で限界があった。これに対して、インターネット上のメディアはいつでも、どこからでも時間や場所を気にすることなくアクセス可能である。つまり、リーチとリッチネスを高次元で両立してくれるのである。

2)コンテンツのデジタル化

コンテンツがデジタル化したことで顧客に対する見方も変容している。

・価値共創論:情報の発信者が限定されていた時代を経て、様々な人が様々な目的で情報発信ができるネットのコミュニケーション環境が登場すると、情報発信に関する民主化が始まる。誰でも情報発信できるようになると伝統的な顧客像も変容することになる。
 
売り手の側が生み出した価値物を顧客はお金と引き替えて購入して、その価値を受動的に費消する存在であるという見方は修正され、消費者であると同時に価値物を生み出す生産者でもあるという見方(いわゆるプロシューマー論、生産的消費者像)が一般化してきた。今日の顧客は消費をすると同時に生産(創作)もしている。
 
インスタグラマー、ユーチューバ−は意図していないかもしれないが、コンテンツの制作者(プロデューサー)でもある。ここから、生産者と顧客とが価値物を互いに共創(co-creation)しているという見方も登場してくる。

・カスタマージャーニー・アプローチ:従来のマーケティングの想定では、売り手の側に大量の情報があり、買い手である顧客の側の情報量は限られているとされてきた。しかし、経済のデジタル化によって、このいわゆる「情報の非対称性」が解消されてきているというのも大きな変化である。
 
このことから、従来の顧客による広告受容モデル(たとえば、アイドマモデル)は修正され、新たに、ファイブ・エー(AWARE, APPEAL, ASK, ACT, ADVOCATEの5A)やSAVE(Solution、Access、Value、Educationの英語の頭文字)、などデジタル経済下の新しい購買プロセスのモデルが提唱されるようになっている。
 
たとえば、コトラー(P.Kotler)はデジタル化された顧客データを基盤にした新しいマーケティングを「マーケティング4.0」と呼び、新しい購買プロセス解明のフレームワークとして「ファイブ・エー(5A)」を提唱している。
 
これらの主張に共通していることは、一連の購買プロセスの流れをカスタマージャーニーと呼び、デジタル経済によって多様な顧客接点(タッチポイント、コンタクトポイント)が企業側にアクセス可能になっていると考えていることである。
 
▼様々な顧客アプローチ
 
従来から顧客との直接の接点の重要性は「真実の瞬間Moment Of Truth; MOT」と呼ばれ、特にサービス業の分野で強調されてきた。接客担当者が顧客に直に接触する場面(多くの場合、サービス提供の現場)こそ、顧客満足にとって一番重要な局面であるというのがその見方である。
 
ところが現代のデジタル経済においては、多様な顧客接点にアクセス可能になり、真実の瞬間が複数存在すると見なすようになったのである。
 
グーグルの調査が指摘するように、ゼロ次の真実の瞬間Zero Moment of Truth、1次の真実の瞬間First Moment of Truth、2次の真実の瞬間Second Moment of Truthという具合にカスタマージャーニーの流れにしたがって、複数の決定的瞬間が訪れると考えるようになっている(Google & Shopper Sciences)。
 

前述のように、デジタル経済におけるコンテンツマーケティングのもつ新しさをメディアのデジタル化とコンテンツのデジタル化に分けて整理してきたが、コンテンツマーケティングであっても「変わらないこと」は当然ある。まず、最初のポイントは、消費者の情報処理能力は限られているという「当たり前の事実」である。
 
・デジタル技術の受容をめぐる顧客の処理能力の限界
デジタル技術のような新しい技術の場合、その採用は最終目標ではなく、別の目的を効率的に達成するための手段である場合が多い。顧客がデジタル技術を受容するかどうかはそれがどのような利便性(価値)を自分にもたらしてくれるかどうかに左右される。
 
しかし、デジタル技術が自分に生み出す利便性(価値)を正しく評価することは顧客には難しい。人の情報処理能力には制限がある。これは今から半世紀も前から言われてきたマーケティングにおける消費者理解の基本前提である。
 
インターネット環境においては、真実と異なる情報や違法性のある情報であふれかえっている。このような環境の中で情報を賢く活用する能力がメディアリテラシー(media literacy)と呼ばれるものであるが、顧客の情報処理能力(メディアリテラシー)の向上には限界がある。
 
・デジタル経済におけるイノベーションのジレンマ
コンテンツに対するメディアリテラシーとは、多様なメディア(ペイドメディア、オウンドメディア、アーンドメディア)を通して伝わるさまざまなコンテンツ情報の中から、必要な情報を必要な時に抜き出して活用する能力のことである。
 
メディアリテラシーを育成すべしという主張はよく聞く話ではあるが、顧客の情報処理の能力は簡単に上昇するものではないし、ある程度上昇はしてもそれを上回るスピードで情報技術が進化しているため、「顧客は技術の発展について行けない」のである。
 
年々進化するスマートフォンの全ての機能を使いこなしている人がどれほどいるだろうか。それを使いこなすために顧客にどれほど労力が必要になるかという、顧客が知覚する「技術利用の容易性」が問題になる。
 
これは非常に悩ましい問題で、これまでも「イノベーションのジレンマ」という言葉で語られてきた。情報化社会におけるイノベーションのジレンマとは顧客の情報処理能力(リテラシー)を上回るスピードで情報技術が進化してしまい、技術進化の恩恵を顧客が受け止めきれない(あるいは受け入れない)状態のことである。
 
いわゆるイノベーター、オピニオンリーダー、インフルエンサー的な人の数は限られている。先進の技術に対する抵抗感の高い人、スパム情報のリスクに対する嫌悪感の高い人なども一定数存在している。
 
・コンテンツ・ショック(Content Shock)
大量のデジタルコンテンツの発信は受信者である顧客の情報処理能力(メディアリテラシー)の限界を超えてしまい、その多くが無視されたり、スパムと認識されたりしてしまう。こうした結果、コンテンツ・ショック(Content Shock)と呼ばれる現象が企業側に起こるという主張が登場してくる(これはMark Schaeferが最初に指摘したとされている)。
※参考 https://contentmarketinglab.jp/trend-in-usa/content-shock1.html
 
その主張のポイントは3つある。
1) 資金力のある大手企業がコンテンツ制作に有利になる。
2) コンテンツ間の競争が激しくなり、新規企業による参入が難しくなる。
3) コンテンツマーケティングの費用対効果が悪化する。
 
まず、人々の情報処理能力を超える形で、コンテンツの量が増えている。そのためコンテンツを目にしてもらうまでに必要なプロモーション活動のコストが増加し、資金力のある大手企業に有利な状況が生まれている。

第2に、検索結果画面で上位表示するための競争(SEO)が激しくなるなど、コンテンツによる集客も一層、困難になっている。
 
第3に、コンテンツマーケティングを実践するためのコストが、それが生み出す利益を上回る事態が発生するのではと懸念されている。いわゆるメガプラットフォーマーと呼ばれる少数の巨大企業が膨大な顧客データをテコにして、グローバル化していることは、こうしたコンテンツ・ショックの1つの裏付けになるだろう。
デジタル経済では情報流を握る(ビッグデータをコントロールする)ことで独占化が可能なのである。
 

コンテンツマーケティングを語るときに、「顧客はあなたのことも、あなたの製品やサービスのことも気にかけていない。彼らが気にするのは自分自身のこと、彼ら自身の欲求やニーズだけだ」というピュリッジ(Joe Pulizzi)の言葉がよく引用される。
 
デジタル経済におけるコンテンツマーケティングを従来型マーケティングと対比して、一種の代替関係のように述べる論調も見られる。パラダイム(モノの見方、世界観)がコンテンツマーケティングと従来型マーケティングでは根本的に異なるというような主張である。伝統的なマーケティングの顧客満足customer satisfactionに変わって顧客エンゲージメントcustomer engagementなどの用語が使われるようになっている。
 
その背景には、1回の売買に基づく販売額という売上価値だけではなく、顧客が長年にわたって自社製品を愛顧してくれる価値(生涯価値)、顧客の口コミによって得られた新規顧客の獲得(紹介価値、影響価値)、さらには顧客の知識をベースに生まれた新商品(知識価値)、など様々な顧客価値に対する認識が広がっている。

しかし、そこで想定されている従来型マーケティング自体がかなり狭く認識されている。すでに1980年代から、「匿名の顧客から顔の見える顧客へ、単発的な売買から長期継続的な売買へ、顧客の獲得から既存顧客の維持(顧客の進化)へ」など、マーケティング活動をリレーションシップ(関係性)の構築・維持として捉える見方は一貫して提唱されてきた。
 
このような見方がデジタル経済の登場によって、より具体的に、実現可能なものとして語ることができるようになったというのが本当のところである。
 

コンテンツマーケティングの有効性・効率性を左右するポイントはパソコンやスマートフォンなどのデジタル機器を便利なツールだと顧客に知覚してもらう、デジタル技術の使い回しが簡単だと顧客に知覚してもらうということである。
 
デジタル技術が便利で、デジタル技術の使い回しが簡単だと顧客に知覚してもらうためになすべきことは、コンテンツ情報の中身が顧客にとって価値があると知覚してもらうことである。消費者がコンテンツに接触したときに、まずそこに含まれる情報(イラスト、写真、動画、文字等)はいったん短期記憶に蓄えられる。
 
次の瞬間に長期記憶にストックされた知識(解釈ルール)との照合が行われ、それらが合致していれば、当該ルールは適用され、次の行動に移る。たとえば、有機野菜に関するコンテンツをみたとき、その印象が短期記憶に入り、「有機野菜は身体によい」という長期記憶のルールがあると、短期記憶においてコンテンツの情報は長期記憶のルールと相互作用して、価値ある情報として認識され、ある種の行動が起こる。

問題はこの短期記憶の情報処理の容量はかなり制限されていることである。そのため、一度に大量の情報を処理しようとすると、短期記憶の処理可能な容量を超えてしまい、結局、顧客に情報はうまく伝わらない。
 
そのため、コンテンツの情報の中身をどのように顧客に呈示するかを慎重に考える必要がある。製品・サービスを購買・消費することで、どのような便益(顧客価値)が顧客にもたらされるのかをできる限り客観的な事実として顧客に伝達するようなコンテンツが有効である。事実情報とは製品・サービスのもっている外部からも容易に観察可能な(意味が安定的に解釈可能な)製品・サービス属性のことである。

事実情報をコンテンツとして伝達する容易さは製品・サービスの種類によって異なってくる。今回、本プロジェクトの調査対象となったのは「美容」「出産・育児・教育」「旅行・レジャー・ホテル」「投資・資産運用」「車・ホビー・ガジェット」の5つの商品カテゴリー分野である。
これら5つのカテゴリーを事実情報の伝達の容易さという観点から整理すると、すべてがサービス商品に属している。
 
一般に、有形の製品よりも、無形のサービス商品の方が事実情報を伝えることは難しい。
調査結果をみると、情報収集の際、どのようなメディアが有力な情報源になったかについて、ほぼ全てのカテゴリーで、「専門家のレビュー(専門サイト)」と「ネットニュース」が列挙されている。この他にも「新聞社系ニュースサイト」も多く閲覧されている。
 
要するに、サービス商品はその品質評価が難しく、サービス商品の品質は状況に応じて変動しやすい。そのために、より客観的で、信憑性があると顧客に認識されているメディアやそのコンテンツが活用されていると思われる。
 
▼情報収集するメディア

もう少し具体的に見てみよう。「美容」というサービス商品のカテゴリーでは、男女、年代を問わず、一貫して「専門家のレビュー」「サービステクニックや商品特性や価格などという事実情報の提供が重視されている。

したがって、選択されるメディアも「専門サイト」や「ネットニュース」、「新聞社系ニュースサイト」などの事実情報の取得に役立ちそうなメディアが選ばれている。この傾向は「出産・育児・教育」、「投資・資産運用」というサービス商品でも同様であり、「ニュースサイト」「専門のサイト」そして「新聞社系のサイト」がメディアとして多く活用され、コンテンツとしては「そのサービスの質(テクニック)」や「新サービスと価格」などの実用的な情報が求められている。

 

▼美容記事は、どんなメディアで読んでいる?

 

▼美容について興味関心が高い記事はどれか?

 

「旅行・レジャー・ホテル」の場合、活用メディアとして「専門のサイト」と「ニュースサイト」の比率がダントツに高く、それに続くのは「ニュースアプリ」である。また、求めるコンテンツとしては「消費者の口コミ・体験談」が高くなっている。

 

▼旅行・レジャー・ホテル記事は、どんなメディアで読んでいる?
 
▼旅行・レジャー・ホテルについて興味関心が高い記事はどれか?
 
「車・ホビー・ガジェット」も「専門のサイト」と「ニュースサイト」の比率が高いが、特徴として、YouTubeやTwitterの利用率が他のカテゴリーに比べて高くなっている。
車・ホビー・ガジェットはより顧客個人の嗜好性の高い商品であり、好き・嫌いの評価が個人間でばらつく傾向がある。
 
そのため、SNSにおける特定の嗜好を共有したコミュニティが重要な情報源として利用されているのであろう。
コンテンツとして、「消費者の口コミ・体験談」が旅行・レジャー・ホテルと同様に極めて高い。
 
▼車・ホビー・ガジェットの記事は、どんなメディアで読んでいる?


▼車・ホビー・ガジェットについて興味関心が高い記事はどれか?

 

以上をまとめると、サービス型商品は事実情報を広く客観的に集めるのが困難であり、その意味で、一種の経験型商品(experience goods)(場合によっては信用型商品(credence goods))に該当する。
 
経験型商品とは「使用または購買前に評価が困難な特性を備えた商品・サービスで、実際に消費することによって初めてその特性を評価できるもの」のことである。さらに、一口に、経験型商品といっても、事実情報の伝達に相応しいメディアとコンテンツの中身には違いがありそうだと言うことである。
 
「車・ホビー・ガジェット」などの個人の嗜好の相違が強く現れる商品や、顧客の使用状況(文脈)に強く影響を受ける「旅行・レジャー・ホテル」などの商品の場合、アクセスするメディアの種類に違いが生まれる可能性がある。
 
最近、文脈価値(value in context)という言葉をよく耳にするが、それが指し示しているのは、商品の置かれた文脈(使用状況)が一人一人の価値評価に影響を与えるということである。たとえば、「家族での旅行と恋人同士の旅行」は同じ旅行であっても使用文脈が全く異なる。
 
また、「アニメ・オタクとフィギュア・オタク」では嗜好の中身が異なり、必要とする事実情報も異なるだろう。
 
 
デジタル経済下では、顔の見える顧客を把握することができるようになるが、「顔が見える」とは、顧客の置かれた使用状況(文脈)の違いと顧客間の嗜好の差異(好き嫌いのバラツキ)がより詳細に把握できるようになるということである。
 
コンテンツとして事実情報を呈示する場合、有形の商品よりもサービス商品(経験型商品)の方がより複雑になり、顧客から見て信用/信頼のおける情報源(メディア)が選別される。
 
特に商品に対する嗜好の面で顧客間に大きな異質性が見られる場合、また置かれた使用状況(文脈)が顧客による価値の評価に大きく影響を与える場合、事実情報としてのコンテンツの呈示はさらに技術的に複雑化・細分化し、より一層多様な情報源(メディア)が登場することになる。
 
しかし、消費者の情報処理能力は限られているので、コンテンツの種類が複雑化・細分化し、メディアが多様化しても、実際に顧客にアクセスされるコンテンツ・メディアの数は増えないだろう。
 
これがコンテンツマーケティングにおける「イノベーションのジレンマ」「コンテンツ・ショック」現象である。このようなジレンマに直面している発信元の企業は有効なコンテンツマーケティングの実践のために何ができるのであろうか。
 

顧客に選択されるコンテンツとメディアであるためには、製品・サービスに関する事実情報が縮約されて顧客に呈示される必要がある。「縮約情報」ということがキモである。縮約情報というのは情報の量を適量化し、さらに情報の質を複雑にせずに簡素化することを意味する。

そうした作業はオフラインの小売業と共通している。小売業者は何をしているのかと言えば、大量に存在する商品・サービスの世界から、小売業者自身が顧客のニーズに合致しているであろうもの(商品/サービスの集合=品揃えという)を選択して、店舗に並べるわけでこの役割を商品/サービスに関する「縮約情報」と呼ぶ。

オンラインの小売業者もこの品揃えが莫大に広がったとも言える(=これをロングテールと呼んでいる)わけだが、では消費者はそのすべての商品/サービスのなかから自分のニーズに合致したものを主体的に選んでいるかと言えば、そんなことは通常はできない。
 
一般の消費者は画面に並んでいる上位の商品/サービスの品揃えのなかから、選択せざるをえないのである。それはいつの時代も、人が受け取る情報量が、有限であることに起因する。
だからこそ、オフラインの小売がやってきた「情報の縮約化」のように、オンラインでは比較サイトの「集合知」、アマゾンの「レコメンド技術」が事実情報を縮約し、専門家やインフルエンサーの「キュレーション」が伝聞情報を縮約補完する
 
つまり情報の質を複雑化させずに簡素化する(要約される)ことが今後一層求められるのである。そしてその縮約の中身や手段は、時代とともに変化することも付け加えておきたい。
それは消費者の関心事や情報に接するデバイス、メディアが日々刻々と変化していくからである。
例えば、米国のビジネスウェブメディアが提唱した「Quartzカーブ」というものがある
 
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アメリカの新聞の平均的な記事の長さは、紙面の上から下までの一段の記事で、語数にして700語台である(日本語に訳すと2千数百字になる)。
だが、『クオーツ』は、500語よりも短い記事と、800語よりも長い記事に特化している。
 
この哲学に行き着いたのは、トラフィックを分析したところ、デジタルでよく読まれるのは短い記事か長い記事のどちらかだという分析結果を得たからでもあり、700語台の記事は無駄が多いと考えるからでもある。
 
※参照 アメリカで躍進中のビジネスニュースサイト『クオーツ(QUARTZ)』 その編集方針と経営戦略を聞いた  | New York Sophisticated | 現代ビジネス [講談社] より
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一般的な新聞記事の700語よりも、ウェブメディアでは「短文の500語」または「長文の800語」の方がトラフィックが増加することに目を付け、ウェブ記事の最適な分量を決めたという話である。言語や文化背景が違うため、日本で応用するには検証が必要だが、このように消費者が反応する分量についても編集方針を持つことが重要である。
 
● まとめ
リレーションシップ(関係性)の基礎にあるのは、顧客と企業との間の信用・信頼の相互規定関係である。コンテンツマーケティングをリレーションシップマーケティングの1つのツールと見なすならば、信頼されるコンテンツと信頼を生み出すコンテンツの間で良循環を生み出すことが大切である。
 
価値ある情報のコンテンツは顧客の側に信頼され、その信頼を基盤にして、さらに有益なコンテンツの情報発信が促される。
このような双方向の良循環がリレーションシップ型のコンテンツマーケティングとして望ましい姿ではないだろうか。
 
 
 
株式会社カタリベ 代表取締役社長 永瀬義将(ながせ・よしまさ)
大学在学中にタクシー広告に特化したビジネスで起業。2004年ネット広告代理店(株)オプト(現:東証一部オプトHD)に入社。営業部長などを歴任し、子会社2社(SMM関連事業、デジタルマーケティング人材紹介事業)の取締役執行役員に就任。2013年(株)カタリベを設立、代表取締役社長に。

明治大学 商学部 教授 小林 一(こばやし・はじめ) 
1953年生まれ。81年、明治大学大学院商学研究科博士後期課程の単位を取得し、同年より明治大学短期大学助手となる。82年同短期大学専任講師、86年同短期大学教授。 87~88年に米国ワシントン大学の客員研究員。96年より明治大学商学部助教授をへて、同年、明治大学商学部教授就任し、現在に至る。テーマは戦略的マーケティング論と流通チャネル論。
・著書・論文
『新訂流通総論』(白桃書房)、共著『市場駆動型の戦略』(同友館)、『ケイパビリティとしての事業システム』(明大商学論叢)、『戦略的SCMケイパビリティ』(戦略的SCMケイパビリティ)、『ダイナミック・ケイパビリティ研究の現状と課題』(明大商学論叢)など
・参考リンク
https://www.meiji.ac.jp/dai_in/commerce/faculty/02/6t5h7p0000014zgl.html