中川政七商店が、数ある広告施策の中でネイティブアドだけに取り組む理由

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全国に50を超える店舗を構え、注目度の高い商業施設への出店が相次ぐ『中川政七商店』。
「日本の工芸を元気にする!」という一貫したビジョンのもとに、その商品づくり、店舗展開、コミュニケーションに業界内外から注目が集まっています。
今回は、オフライン・オンラインのタッチポイントにおけるコミュニケーションを監修する緒方氏に、中川政七商店流の顧客との向き合い方や、デジタル世代を取り込むネイティブアド施策について、お話を伺いました。

工芸市場を牽引する覚悟をもつ「創業300年のスタートアップ企業」

カタリベ: 中川政七商店は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げ、工芸をベースにした生活雑貨の企画製造・販売をされています。
また、工芸市場全体を盛り上げる合同展示会の開催や、全国の工芸メーカーを支援する「コンサルティング事業」まで手掛けられています。正直ここまでやるのか!と驚きました。
 
緒方様: 我々はよく自分たちで「創業300年のスタートアップ企業」だと言っているんですが、それは過去の歴史や事業にとらわれないことで生き残ってきた自覚があるからです。

もともとは奈良で高級麻織物を扱う商店として出発しました。僧侶の袈裟や武士の裃、茶道具の茶巾などに重宝されていましたが、時代の変化にともない市場は縮小、作り手も減少していきました。そこで茶巾づくりを突破口に茶道具の製造を手掛け、また麻織物を使ってタペストリーやコースターなどの雑貨づくりへと広がっていきました。
 
最初は百貨店などでの卸販売がメインでしたが、ものづくりの想いを「正しく伝える」ためには、自分たちで直接お客様に届けなくてはならない、という考えのもと、SPA(製造小売)に転換していったのです。

本当にお客様が必要としているものは何か、正しい値付けはいくらなのか、真剣に考え抜いてものづくりをしていかないと生き残れないと感じていたのだと思います。
 

株式会社中川政七商店 取締役 コミュニケーション本部 本部長 緒方恵氏


カタリベ: なるほど。そういった自社の事業転換やブランドの再構築が礎になって、現在の事業につながるのですね。現状のマーケティング活動について詳しく教えていただけますか。
 
緒方様: 当社では「マーケティング」という言葉を使いません。少し説明をさせていただくと、マーケティングという言葉自体が中川政七商店らしくないと考えているからです。
 
素晴らしい商品を生み出せるようにものづくりに向き合い、それの価値や意味を適切にお伝えする。その先に新しいマーケットや大きいマーケットが生まれるということはもちろんあると思いますし、意識もしていますがスタンスはあくまで「工芸及びそれに紐づく文化・風習が残る、ということは悪くないことだと思ってます」というような感覚なのでマーケティングを「商品が効率的に売れるように行う企業活動の総称」や「マーケットを作ること」という解釈をした場合、どうしても僕ららしい目線の言葉ではないと感じてしまうからです。

よって、社内では「つくる」「伝える」という言葉でそれらを表現しています。
それがそのまま組織図でもありますが、事業活動は大きく「つくる」「伝える」「支える」の3つに分けられています。
 
この中で私はお客様と接点となる「伝える」について日々取り組んでいるわけですが、具体的には、店舗・EC・自社メディアに関わる施策を動かしている部門になります。私個人の役割としては、もちろん「つくる」「支える」とも連携を図り、全社で良いコミュニケーション活動が出来るような体制を作っています。

ことばが “らしさ” を形作る
 
緒方様: マーケティングという言葉は使わないという話もある種そうですが、言葉の定義づけは、特にこだわってやっているところになります。
 
よく、言葉は言霊になると言われますが、当社の価値基準や中川政七商店らしさを正しく伝えるためのものさしになりますから、大事に扱っています。これまでに数千語の定義づけと、言葉づかいのルール(漢字・平がな、片かな、送りがなの使い方に至るまで)を決めてきました。

例えば、現在お中元のシーズンですけれども、関連性の高い用語として「ギフト」がありますよね。デジタルの世界では検索回数が多い、いわゆる「ビッグ・ワード」をページや広告に使用して、SEOや集客効果を高めるというのが定説です。
 
当社の場合も「ギフト」という検索語でのウェブサイト流入は非常に多いのですが、ギフトという言葉は使っておらず「贈りもの」という表現に統一しています。「贈り物」でもなく「贈りもの」としている理由は、「物=プロダクト」に引っ張られてほしくないなと。
 
季節のごあいさつという気持ちものせた、日本の文化ですから。そういった細かいニュアンスをくみ取った表現の積み重ねがブランドになると思っています。
 
また、こうして定義された言葉は、ウェブサイトのみならず、店頭のポップに至るまであらゆる場面で同じ言葉を使うことを徹底しています。なぜそこまでやるのか、そんなことをしたら表現の幅を狭めて仕事がしにくくなるのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そんなことは無いのです。しっかり共通認識を持った言葉をもっているということは、結果的に意思決定や作業効率も高まるのです。
 
カタリベ: 意思疎通がスムーズにできて、コミュニケーションコストが下がるという理由は納得です。他にも言葉にこだわる理由があるのでしょうか。
 
緒方様: 言葉の定義づけによって「再現性が高められる」と考えています。別の言葉を引き合いに出すと、当社では接客のことを「接心好感(せっしんこうかん)」という言葉で表現しています。これは店舗スタッフも巻き込んで考えた完全オリジナルの造語になります。

良い接客とは何か?を突き詰めていったときに、“お客様に接する”だけでは良い接客を言い表すことはできないよねというところから、政七流の良い接客とは何か議論を重ねました。
 
結果「お客様の心に接し、好感(信頼)を得る活動」が我々の考える接客であるというところに到達しました。行動指針にも近い「接心好感」という言葉が出来たことで、スタッフ全員が共通の価値観の元に、お客様に対してコミュニケーションが取れるということが、先ほど申し上げたような「再現性」につながるのだと信じています。
 


広告には頼らず、お客様にとって便利な接点を用意することが大事

カタリベ: 以前、中川政七商店は「広告活動を行わない」という記事を拝見しました。緒方様はオンライン・オフラインに関わるコミュニケーション活動を担っておられますが、広告に頼らずに顧客接点をどう作り出しているのでしょうか。
 
緒方様: 当社の製品は生活必需品ではないので、来店していただく「きっかけ」づくりは必要不可欠です。とはいえ、むやみやたらに広告を打って新規顧客を獲得するようなことは一切していません。
 
お客様にとって必要のない情報を一方的に届けられても、それはノイズにしかなりませんよね。そうではなく、お客様が当社に対してどの程度共感しているのかを独自に定義して、共感の度合いによってコミュニケーションの接点や方法を分けて施策を考えています。
 

 
カタリベ: お客様との関係値はなかなか定量化しづらいところかと思いますが、どのように分類されているのですか。
 
緒方様: 「購入商品」や「購入頻度」などによって、お客様のステータスを分類しています。お客様のステータスによって、中川政七商店の何に価値を感じているのか、それに対してどのような接し方をすればいいのかが異なります。
 
より関係を深めるためには、ステップバイステップで、お客様自身がその時に欲している情報を選択できる状態を作らなければならないと考えています。

ネイティブアドを活用して、ライトユーザーに歩み寄りも

カタリベ: お客様との向き合い方についても、しっかり言語化・イメージ化されているのですね。さて、まだ中川政七商店についてそこまでよく知らないユーザーや、関係構築が「ライトな中川政七商店ファン」に対しては、どのようにアプローチしているのでしょうか。
 
緒方様: 先程少しお話しましたが、どんなステータスにいても「きっかけ」づくりは重要です。「ヘビーな中川政七商店ファン」に対しては、当社のウェブサイトやアプリでコミュニケーションがとれるのですが、そうではないお客様にはこちらからの適切なアプローチも必要です。そこで数年前からLINE@やネイティブアドへの取り組みを始めました。
 
カタリベ: 2年前からネイティブアドのお取組をご支援させていただいていますが、カタリベをパートナーに選んでいただいた理由をお聞かせいただけますか。
 
緒方様: 最初に営業に来ていただいた時から、カタリベが考えるコンテンツマーケティングの世界観* と私が考えていたそれが近しいものだったということが理由でしょうか。
 
*カタリベは「モノから物語へ、そして体験談へ」をスローガンに、世の中にオリジナルコンテンツが増えて、企業とユーザー双方にとって有益な情報提供・情報消費が行われる世界を目指しています
 
ネイティブアドはその名の通り「広告を自然に溶け込ませることで、ユーザーにコンテンツの一部として見てもらうことを目的とした広告」なのでユーザーにとってノイズになりにくいかつ、ユーザー自身が興味を持って初めてコンテンツに触れてくれるという点でも、広く告げる=広告とは異なる手法だと考えています。
 
何より、デジタルにおいても「接心好感」に適うコミュニケーションを実現していきたいので、その手段としてネイティブアドを選択したと言えます。逆に言うと、広告はこれしかやってません。

また、コンテンツ自体も「店長へのインタビュー」など、売らんかなが前に出るものではなく、あくまで「よかったら是非」というスタンスを守りやすいのもいいなと思ってます。
 
カタリベ: ネイティブアドは企画設計や運用で差が出る手法かと思いますが、工夫している点などありますでしょうか
 
緒方様: 初めにお話したようにネイティブアドで接点を持ちたいお客様の層を「ライトな中川政七商店ファン」に置いているので、そこをぶらさずにコンテンツやクリエイティブをカタリベさんに一緒に考えてもらっています。
 
なんとなく中川政七商店のことを知っていたり、利用したことがある方の2回目を後押しできるような展開を望んでいます。また運用に関しては、コンテンツによって掲出メディアや露出量を変更したり、コンテンツ自体を変更したりして知見をためています。
 
余談にはなりますが、カタリベの営業さんがもともと中川政七商店のお客様だったので、よりお客様目線で企画や運用に携わってもらえているので助かっています。
 
カタリベ: 詳しいお話を聞かせてくださり、ありがとうございます。最後に、今後の展望など伺えますでしょうか
 
緒方様: 会社のビジョンである「日本の工芸を元気にする!」を実現するために、日本文化継承の担い手でありたいと思っています。具体的には工芸市場をかつての3000億円規模に戻すという目標を掲げています。これは自分たちだけが成長するのではなく、コンサルティングした会社と共に達成していきたい目標です。
 
個々の会社が経営、ブランディング、デザイン、ものづくりに取り組んで、自立して販売する力をつけていただくことが目標達成には必要不可欠です。もちろん我々がその一翼を担う形で、リードしていけたらと考えています。その結果、お客様に選択肢を多く提供できることが望みです。

※ページ上の各種情報は、取材時(2019年7月時点)のものです